鈴北糸の雑記帳

三人組創作ユニットがなんとなく始めたブログ。

21ページ目:有給の使い方考えようねって話

こんばんは、鈴です。気がついたら二週間経っていました。何してたの?と思われそうだったので記憶を掘り返していたら、そういえば有給使ったなあと思ったので、今日はその話を書く事にします。

 

有給使って和歌山に行ってきた。

 

最初は九州のつもりだった。2日前に調べてみると、夜の大阪港からフェリーに乗れば次の日には九州に着いているとサイトは表示していた。温泉街の別府、鹿児島の志布志、みたことのない場所が良かったので志布志に行こうと決めた。初めて聞く名前が良かった。

とりあえず予約センターに電話して、「すいませ~ん、なんか、九州のどこかにいきたいんですけど~」と話してみたところ、私のような前日に旅行の予定を立てる人間はお呼びでないようで、

「ご希望の日程のフェリーのベッドは、既に埋まっております」

とそっけない返事が返ってきた。当然である。普通は1っヶ月ぐらい前から予定を押さえ、友人を誘ったり、ホテルの早割を調べたり、観光名所の回り方を考えるものだから。予約者の綿密な計画を前に、行き当たりばったりで立ち上げた私の九州旅行計画はあっけなく消えた。そもそも2日前に船の予約を取ろうとするのがダメなのだ、もうこれは諦めて手近な健康ランドの温泉にでも浸かってくるのがよかろうと暗に言われているようだった。

 

でも私の旅行欲(?)はそんなにお行儀が良くなかったので、次の日の通勤電車の中楽天トラベルを開き「どこでもいいので泊まれる場所」を探した。本当はフェリーが良かったけどそれも諦めた。自分が行ったことの無い場所で泊まれるところはないかと探してみると、一番上に「加太(かだ)にあるホテルが空いていますよ~」と表示されていたので、勢いに任せて予約した。夕食なし、朝食ありの一泊、温泉あり。有給1日前の出来事である。

 

そんなわけで、私の一泊和歌山旅行は突如始動したのである。

 

とにかくどこかに行きたい気持ちだけだったので、ホテルを予約してから自宅からの経路を検索し、そこで初めて加太が和歌山の都市であること、自宅から往復で3000円、4時間ぐらいかかることを知った。嬉しいことに海に面していたので、こりゃ美味しい海鮮料理でも食べられるのではないかと期待した。ホテルの周りには数は少ないが飲食店があるらしく夕飯がなくてもそこで食べられるそうだった。

これは当たりなのではないか?とふと思った。しかも駅からホテルまで係員さんが迎えにきてくれるらしい。さらに海に面したバルコニーからは夕日がみれるらしかった。ロケーション抜群、海を見ながのんびりできれば最高の旅だろう。

そう思うと、目の前にある仕事もなんだか楽しく終われそうな気がしなくもない。なんたって私はこれから旅行を控えているのだから。周りの人はいつもと変わらない休日を過ごすのだが、私は違う。少し違う景色を見てくるぜ、と思ってその日の業務を終え、浮き足立って退社したのである。

 

そして当日、浮き足立った私は時間をミスって1時間遅い和歌山入りをした。

 

 

到着すると18時過ぎのとっぷり暮れた街並みに白い車とスタッフさんが待っていてくれた。遅くなることは事前に伝えていたが、それでも寒い中外で待ってもらっていて申し訳なかった。

そして当然の如く夕日は暮れており、飲食店は早々に閉まっていた(スタッフさん曰く、個人経営の店でそもそもその日が不定休だったらしい)。私が夕食を抜くことを知っていたので、事前に調べてくださって、「どこもお休みで…すみません、売店カップ麺なら売っていますが…」と申し訳なさそうに話してくれて、逆にこっちが申し訳なかった。ひとまず売店に売っていた「和歌山の美味しいラーメン」を購入し、部屋に向かった。四畳半の部屋の窓は海と反対側についていて何が見えるのかよくわからなかったが、電気につられて窓に蛾が何匹かいるのは分かった。畳には既に布団が敷いてあり、端に寄せられた机の上には申し訳なさそうに添えられたお菓子がひとつと、電気ケトルが置いてあった。

とりあえず、部屋でくつろぐのは後にした。荷物をその場でおろし、早く温泉に入ることだけを考えて向った。更衣室に人が誰もいないことが救いだった。ちょっと贅沢したくなったので脱衣所のカゴを2つ使って温泉に入った。露天風呂にもひとはいなくて、広い風呂を独り占めして体を伸ばすことができた。眼前には真っ黒い海があって、日の入りの時刻になれば夕日が海に沈のを見ながら温泉に入れたんだなあ、と思った。時々トラックが下を通るたびにライトに照らされた海が若干明るくなっていた。

 

さて、ここで質問です。

 

 

温泉で一息ついた鈴がまず考えたことは、何でしょう?

 

 

 

正解は、「変わらないなあ」でした!!(笑)

 

 

 

いや本当に、笑えるぐらい何も変わらないという思いでいっぱいだった。

というのか、そう思った時、そもそも「何」が「何」に変わって欲しかったのか、どうなりたかったのかすら分からなかった。

ただわかることは、私はどうやら旅行に行くことで何かを変えたいと思っていたことだけ。フェリーの予約センターに門前払いされ、楽天トラベルの蜘蛛の糸にしがみついてでも何かを得たいと考えていたらしかった。周囲よりも一足お先に休暇をとって、いつもと違う休暇を過ごすのだと信じていた。

そうやって、私が私のために用意したものが真っ暗な海と乾麺と温泉だった。

 

しかし場所を変えても、私は何かを変えることはできなかった。私はただ、和歌山のホテルのなかで、自宅のように風呂に入り、自宅のようにごはんを食べ、自宅のように考え事に耽るしかないようだった。考えてみれば当然のことだったけど、なぜ旅行中なら悩み事が減ると考えていたのだろうか。そんなことはないのに。気分が解れても、目先の問題は何も解決しないのである。

海も乾麺も温泉も、私の五感を紛らわせることはあっても、私の「何か」を変えることはできないらしかった。

 

それ以上の感想はなかった。しばらく暗い海を見て、灯台が時々光るのを十分に満喫したのちに私は温泉から出る事にした。私と入れ替わりに他のお客さんが多く入ってきた。時刻は20時を少し過ぎたぐらいで、ちょうど宿の夕食が終わった頃らしかった。騒がしくなった脱衣所では私の使っている二つのカゴが存在感を放っていて、急いで着替えてカゴを空にし、その場を後にした。

 

夕食どきの時間だというのに、なぜかお腹は空かなかった。自分の部屋に戻った後でも、何かするわけでもなく時間が過ぎていくのがもったいない気がして、意味もなくフロントに降りてよく分からない番組をぼんやり見ていたり、売店のお土産を物色していた。何も買わないのに売店にいることがなんだか不自然に感じたので、目についたビン牛乳を買ってそれをちびちび飲みながらテレビを見る事にした。和歌山特産の牛乳らしくて、確か180円ぐらいだったと思う。

 

さてこの後どうしようか、と思いながら一口飲んで見たところ、これが驚くほど美味しかった。

成分調整しておらず、牧場から直送で新鮮な牛乳を届けているらしい。直送のおかげか、市販の牛乳よりも牛乳のコクが強く、ヨーグルトと思ってしまうほど濃厚だった。

こうして、何も変わることはなかったが、「和歌山の牛乳は美味しい」という感想だけ残って私の和歌山旅行は終了となったのである。

 

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おいしい牛乳。飲む前の写真が残っていることは珍しい